名著『自助論』で働く意味や目的に気づく?要点とまとめを紹介!
あなたは『自助論』をお読みになったことがありますか?
『自助論』は起業家や経営者、政治家、サッカー選手などの多くの有名人の勧める本でありますが、ほとんどの人が自己啓発の目的で読んでいるようなのです。
そう申しますと、
「えっ、自己啓発の目的で読んではいけないことなの?」
と疑問を抱かれるでしょうけど、取り扱いに注意した方がよい本なのです。
なぜなら、「勤勉こそ成功者の秘訣である」のような訳文が多いからです。
そう言われると、どの訳文のどんな点に取り扱いに注意した方がいいのか、気になりますね。
そこで、今回は『自助論』の概要と要点に触れながら現代における取り扱い方について紹介します。
『自助論』とは?
『自助論』はイギリスで1859年に出版されたサミュエル・スマイルズによる著書です。
「自助」は文字通り「自らを助ける」という意味でありますが、具体的にどんな意味なのかイメージできますか?
一般的には、「自分磨きのことなんだろう」と推測することはできるでしょう。
『自助論』における本当の意味はそれよりももっと抽象的で、「人格を作る」という意味を持ちます。このことから、『自助論』とは品行方正の人格作りのための書と言えます。
そこで、質問です。「人格を作る」には、どんなことをすればいいと思いますか?
・客観的に良いことは積極的に行う
・客観的に悪いことは控える
・疑問に思ったことは仮説と検証を繰り返す
などのことが挙げられますよね。このような一つ一つの行動を積み重ねていくことにより人格が作られていきます。「自助」とはおおよそ、このイメージで捉えていただいて問題ありません。
一般的には抄訳のものが人気
なお、『自助論』は中村正直氏により翻訳されましたが、現代では彼の翻訳の解読が難しいため、竹内均氏の抄訳のものが一般的に読まれるようになりました。
しかし、作家・宮崎学氏によれば、竹内均氏の抄訳により「竹内均解釈による自助論になっている」とのことです。
そのことに伴い、いくつかの誤解を招いているようです。その誤解について次に紹介します。
『自助論』の翻訳が招いた誤解とは?
『自助論』で自己啓発できたというのは錯覚です。なぜなら、『自助論』では出版当時の時代に合った修養論が提唱されているのであり、現代にそのままダイレクトに通じるものでないと考えられるからです。
竹内均氏の抄訳のものを読む読者にはその認識を持てないために、次のいくつかの誤解をされています。
(1)「成功論」という誤解
『自助論』を勧める方の多くは、著書の中にある成功者の言葉を引用して「私は『自助論』のこの言葉で成功してきたのです」と言われます。
しかし、宮崎学氏の解説によると、スマイルズは
成功するかどうかは天からの賜としてあたえられるもので、人事に属するものではない
※引用元:『「自己啓発病」社会』(宮崎学・著)81頁より
と述べているとのことです。つまり、成功するための考え方を提唱しているわけではないのです。
『自助論』で提唱された本当の考え方とは?
では、スマイルズはどんな考え方を提唱したのでしょうか?
それは、『自助論』が出版された年代から考えてみればご理解いただけます。
『自助論』が出版された年は上述のとおり1859年であり、イギリスで産業革命が起こってから100年ほど経過した時期です。
産業革命に伴い、工業が発展していきましたが、ある問題が発生しました。それは、
働く人々にとっての働く意義
についてです。
それ以前の農業中心だった社会では、働く意義を「食料そのものを作り出すこと」に置いていました。“働けば、神から自然の恩恵をいただける”という意味も見出せます。種を植えれば実がなり、それを食して生きていくことができるわけですから。
それが工業中心の社会となると、食料以外のことに働く意義を見出す必要が生じました。
工場で働けば賃金がもらえ、賃金で生活に必要なものを多目的に買うことができますが、当時の労働者は「食料を作り出す」ほどの喜びを得られなかったと言います。
つまり、「雇用されて命令を受けて、それに従って働く」ことの繰り返しに、働く意義を見出すことが難しかったということです。
そこで、スマイルズは「勤勉は美徳である」という考え方を『自助論』の中で提唱したのです。つまり、成功論ではなく、当時の時代に合った働く意義の考え方について提唱したのです。
(2)「自分を大事にすればいい」という誤解
『自助論』の最も有名な言葉で
天は自ら助くる者を助く
というものがあります。
これを誤解して
「自分を大事にすると、天も味方してくれる」
と思い込んでいる人が多くいらっしゃいます。
しかし、スマイルズはその点について言及していません。
確かに自分を大事にする考えは人生において重要なことでありますが、スマイルズは「人格を作ること」で他人に良い影響を与えることを述べています。
つまり、一人一人の品行方正なくして世界を発展させていくことは不可能ということです。
宮崎学氏も次のように主張しています。
みずからを助けるために、外に対して働きかけていかなければならない。そういう自助があってはじめて、「天は自ら助くるものを助く」ということになるのだ。
※引用元:『「自己啓発病』社会』(宮崎学・著)148頁より
上述で紹介しましたように、自助は品行方正を目指す人格作りのことを言いますので、客観性を意識した行動が不可欠であり、宮崎学氏の言うように外への働きかけは自助の必須条件です。
このことから、「自分を大事にすればいい」という解釈は誤解であることについてご理解いただけるでしょう。
(3)「勤勉が大事」の解釈の違い
『自助論』には「勤勉が大事」という記述が多く登場してきます。
あなたは「勤勉」という言葉にどのようなイメージをお持ちですか?
一般的には、真面目に一生懸命仕事や勉強に励むイメージが描かれ、「日本人は勤勉である」と言うときにはその意味で用いられることでしょう。または、成功に向けられた一過程の位置付けです。
一方、スマイルズの説く「勤勉」は、仕事で頭と心をいっぱいにして忙しくしている方が邪悪な考えの入る隙を与えないから心身ともに磨かれていくというものです。
重要なのは、ひたすら一生懸命に行う行為そのもののことだけでなく、心身の磨きにもなるという意味をも含めている点に着目すべきところです。
『自助論』の代わりとなる修養論を自分なりに考えていこう!
ここまで『自助論』の概要と要点に触れながら現代における取り扱い方について紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
『自助論』は出版当時の時代において働く意義を失った労働者のために提唱された修養論でありますので、そのまま業務の多様化した現代に当てはめて活用するのはナンセンスです。
現代では労働者の過労死のニュースが相次ぎ、働き方改革などにより労働時間の見直しが推進されています。スマイルズの説く「勤勉」だけでは心身を保ち続けることが不可能です。
「勤勉」以外に必要なものは何だと思いますか?
それは 趣味 ではないでしょうか。勿論、仕事が趣味というのもアリです、趣味であるならば。
しかし、一般的には仕事と趣味を区別して生活している方が多いものと見受けられます。
「何事もバランスが重要だ」とよく言われるものですが、仕事とそれ以外にかけるエネルギーのバランスをとることは人生を生きやすくするために必要不可欠です。言わば、
仕事とそれ以外は両輪の関係
で、どちらかにかけるエネルギーが多すぎると生活に支障を来たします。
バランスの理想としては、
仕事があるからこそ趣味を楽しめる。
趣味があるからこそ仕事を楽しめる。
と感じることのできる感覚が望ましいのではないでしょうか。
そうであるならば、これからは「趣味は何ですか?」と聞かれたときに、堂々と言える趣味を持つべきです。勿論、「仕事が趣味です」と言えるのもアリです!